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東京高等裁判所 昭和27年(う)4629号 判決 1953年4月27日

控訴人 被告人 春日稔

検察官 野中光治

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、末尾に添附した被告人本人作成名義の別紙記載のとおりであつて、これに対し、次のように判断する。

先ず、所論は、「逮捕現場で、被告人がこの位置でビラを配布したという検察側主張の信憑性がないにもかかわらず、原判決が検察側主張を認めたのは不当である。」旨を主張するのであつて、右「検察側主張」ということばの意味がはつきりしないのであるが、それが、もし検察官の訴追した公訴事実の「訴因」そのものをいう趣旨であるとすれば、それが信憑性がないということは意味をなさないところであるし、又、もし、検察官が取調を請求した証人の供述内容や、証拠書類の記載内容を指すものとすれば、それが信憑性がないということばの意味はよくわかるけれども、証拠の取捨判断は、原裁判所の専権に属するところであるから、原裁判所が、その自由な心証に基き採用した証拠が、たとえ検察官の請求にかかるものばかりであつたとしても、違法であるということはできない。而して、所論は、被告人は、原判決認定のような「道路」において「ビラ」を交付した事実はないと主張するけれども、原判決の判示事実は、所論の場所が道路であるとの点をも含めてすべて、その挙示する証拠によつて、これを肯認することができる上に、記録を精査検討してみても、原判決の右認定が誤つているものとは考えられない。所論は、本件の場所は、空地であつて、道路ではないのに、原判決が本件について、道路交通取締法を適用処断したのは、法令の解釈適用を誤つたものである旨主張するが、しかし、道路交通取締法は、道路における危険防止及びその他の交通の安全を図ることを目的とするもので(同法第一条参照)、同法第二条第二項によれば、同法にいう「道路」とは、道路法による道路、自動車道、及び、一般交通の用に供するその他の場所をいうものであり、従つて、右「一般交通の用に供するその他の場所」とは、道路法による道路、及び、自動車道以外の場所であつて、一般交通の用に供するすべての場所を指称するものと解すべきところ、原判決挙示の証拠をそう合するときは、原判決の認定にかかる被告人が本件ビラを交付した場所は、道路法による道路、又は、自動車道ではないが、当時一般交通の用に供されていた場所であることが認められるのであるから、道路交通取締法にいう道路中「一般交通の用に供するその他の場所」にあたるものと認めるのが相当である。してみれば、原判決が、右の場所を同法にいわゆる道路にあたるものとして、被告人の原判示所為に対し、同法を適用処断したのは正当であつて、原判決には、この点につき、所論のような法令の解釈適用を誤つた違法があるものということはできない。なお、所論は、本件は、基本原則を国民から奪い取る吉田政府の共産党と進歩的労働者の運動を弾圧するために悪用せし憲法をじゆうりんした行為であり、原判決自体も憲法違反である旨主張するのであるが、記録を精査してみても、所論のような事実を認めることができないし、又、原判決に、所論のような憲法違反の存することも、これを発見することができない。故に、各論旨はすべて理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条に則り、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要治 判事 中野次雄)

控訴趣意

1 逮捕現場に於いて私が此の位置でビラを配布したと云う検察側主張の信憑性がなきにもかかわらず、裁判所が検察側主張を認めた不当な判決である点を上げます。

(イ)問題地点は人の通行は殆んどなく警官の目撃したときに前方三、四人の人が通つていたと云う事である。私が工場前通り中央で立止つてビラを配布したとの理由で現行犯逮捕と迫つたとき私が証拠を示せと要求したのにこれだと示す事も出来ず警官は私に其のビラは何が書いてあるのか見せろと云つたが、私は配布理由(配つたと云う証拠)を示さぬ以上、やれぬと拒否し両者の論争で五、六分経過し慚次出勤する日立労働者は周囲に集り直視し動かぬため警官は何にも出来ず八時の始業で労働者の立去るや私の両腕を押へ逮捕した。警官は緊急逮捕だ一点張りで現行犯の立証が出来なかつた。これは公判に於ける両証人の証言の信憑性のない政治的彼等の企みであることが暴露されている。

(ロ)公判に於ける検察側証人の信憑性のない警察権力の政治的犯罪手段の企図で裁判所は擁護している。奥原証人は本件通りに面した工場敷地内プラタナスの植えてあるところで道路ではないと思う。益証人は本件通りに交査する南側道路だと。警察は現場にて現行犯として証明出来ず犯罪成立のため作られたものであることは私が配布したと云う警官の地点であつて両証人の地点は本件の地点で一〇米-八米離れている人に立止つていて渡せるはずがない。しかも奥原と益は別の方角になつている事でも私が配つたと云う主張はでつち上げである。

2 裁判所は以上の点を問題外として奥原証言の地点を主要にして道路か敷地かで本件を道路交通規定を適用し犯罪成立を下している。基本原則を国民から奪い取る吉田政府の共産党と進歩的労働者の運動を弾圧するために悪用せし憲法を蹂躙した暴力行為であり、裁判所自体の判決も憲法違反である。

奥原証言で問題になつた道路、敷地で裁判所の道路交通取締りの解釈はこれ又常道でなき故反論をしておく。判決の中で道路交通の規定で一般に供される私有、公有を問わず危害を生ずる以上司法警察が及ばないから、此の規定が適用される云々とあるが、私有地公有地であつても一般の利用に供される以上は其れ自体が供適する条件が備つていなければならぬと思う。不完全なまゝ供されて人身に事故を生じた場合の責任は誰れが負う事になるのであろうか。本件に出る敷地は炭ガラ鋳物工場より排出される廃物が捨てられ山に積まれ足を踏めばめりこむ状態もある。これは現場検証被告提出の写真で示されている。斯かる問題は棚上げして道路上ビラを持つていたと云う事で路上で配つたと一警官推理認定によつて犯罪として扱われるなれば将来の日本人の一挙一動まで武装警察で干渉される事は許されるべきではなく日本の行政司法の論またずの暴力的政治の復活である。

3 以上公判が不当と検察側と一貫した支配権力の擁護の上にたつての政党労働運動の弾圧に仕組まれた裁判である事を申上げておきます。

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